為替介入って何?
あと何回できるの?
為替変動には様々な要因があり、その一つに財務省主導による為替介入があります。
これは、政府(財務省)による意図的な為替操作となりますから、「歪み」が生まれやすく、その歪みは徐々に元の通貨の価値へと戻る傾向が強いです。
儲かるチャンスなの?
上手くとらえることができれば儲けもでます
しかも、為替介入にはいくつかの制限があるため、制限を考慮すると、介入が行われるのかがある程度推測できます。
この記事では、為替介入の制限だけでなく、介入が行われる時間帯も含めてわかりやすく解説します。
もし、参考になったと思われたら、友人や親戚に “SNS” や “リンク” で紹介して頂けると今後の励みになります。
為替介入の種類
為替変動には介入以外に大きいものだけでも3つの要因があります。こちらの記事で為替変動の他の要因について記載しています。>>為替変動の4つの要因
為替介入は対ドルで考えられることが一般的です。介入の種類は「円買い(ドル売り)」と「円売り(ドル買い)」の2種類という至ってシンプルです。
為替介入の目的はトレーダーによる急速な円の変動を是正するという目的で行われます。
短期な急変動を是正する目的です
・ドル買い円売り:過度な円高
為替介入の「売り」と「買い」の大きな違い
具体的に、円高時に行われる「円売り(ドル買い)」を考えてみましょう。
ドル買いを行う際には「円」を売る必要があります。「円」は中央銀行が発行することが可能ですので、誤解を恐れず言えば、制限なく通貨を増刷することが可能です。
その一方で、円安時に行われる「円買い」は日本が保有する外貨を売却しドルを調達してから売る必要があります。これが大きな違いです。
ん?なんか問題でも?
ドルは日本政府で増やせません
「ドル売り」は日本が作ることができないドルを売る必要がありますから、日本政府が保有する外貨が尽きてしまうと、それ以上の策を打てなくなります。
つまり、円安時の為替介入には上限があるということです。
外貨準備資産
外貨準備資産を大きく稼ぐ手段として、貿易による収支が最も影響があります。
このグラフを見ると、米国をはじめ欧州先進国が赤字圏で推移しています。一方、中国は貿易による黒字が突出しています。>>元データはUNtrade
日本はどうなの?
日本の場合、過度な円高が起きる前には輸出による黒字が大きかったのですが、現在では、生産拠点の海外移転やネットによる海外企業へのサービス支出が大きく、赤字へ転落しています。
つまり、直近で日本は為替介入の原資である外貨準備を増やすことができていないことを上のグラフは示しています。
日本の外貨準備の内訳
日本を含め世界各国の外貨準備資産の多くは「米国債」となっています。
その理由は、世界の基軸通貨であるドルを貿易時の通貨とされているため、一定数量の保有が必要であり、ドルをインフレによる相対的な減少を防ぐために、米国債の利回りによる運用をしているからです。
各国の外貨準備における米国債
こちらの図は米国債の保有割合です。
2位:中国11.9%
3位:英国8.9%
2022年時点のアメリカ債務は7兆3千億ドルです。
これまでの米国債を所有する最大国は中国でしたが、4年間で約2500億ドルを売却したため、日本がトップとなりました。日本の米債保有額は約1.1兆ドルとなります。
日本が円安対策として、大規模に「ドル売り」を行う時には約1.1兆ドルもの米国債が債券市場へ放出されます。
円買い上限額と市場規模
前述したように、ドル売り円買いを行う際に、米国債を手放すことが必要となります。
債券を短期で大量売却すると、債券の需給バランスが崩れ、債券下落となります。
これを日本政府は防ぎたいはずです
そうした背景を知ることで、米国長期債券以外の資産額を見て、円買い介入回数を想定することできます。
円買い上限額
日本の外貨準備の内、米国へ通達することなく日本独断で為替介入を行える余力は外貨預金の1,550億$と1年未満の短期証券1,700億$の合わせて約3,200億$となります。(2024年4月時点)
2024年の余力としては日本円で約50兆円弱の資金となります。
2024年4月29日~5月2に行われた大規模な為替介入が9.8兆円と推測できるため、後5回程度と余力としては少なく思えます。
・5/2には出来高が少ない5時台に行われ157円から154円へ
ヤバそう…
介入方法を工夫すれば問題ありません
日本政府が為替介入資金に余裕がないと意識されてしまうだけで、投機筋の売買ゲーム場と化してしまいます。
そのため、政府は潤沢な資金を投入する用意があるという覚悟を見せるために、2022年9月から10月の為替介入においては、外貨預金を使用せず、米国債の取崩しから為替介入を行いました。
これでは残り回数が想定できないね
財務省の作戦勝ちです
米国債を売ってでも為替介入を行うという姿勢が投機筋から恐れられ、結果として急激な円安の抑止に成功しました。
しかし、米国債を大きく売るには、米国当局への相談と理解が必要となります。
その理由は、米長期債の売却を行う際には市場で売却する必要があり、まとまった額の売却は債券価格の下落と、米国金利の上昇へ繋がるからです。
米財務長官も介入について言及しています
米財務長官は「為替介入は稀であるべき」と日本へクギを指しています。>>Bloomberg-イエレン長官 介入前の連絡必要
米国はインフレと格闘中なので金利に敏感です
為替介入に関するIMF基準
IMFが政府による為替介入ルールを定めています。IMFのホームページはこちら>>International Monetary Fund
IMFのルールを厳守した2024年の介入チャンスは、半年後の10月末までに2回×3営業日の6営業日が介入可能な日と考えられます。
為替の急変動にはIMFも理解を示しています
IMFのエイドリアン局長は2024.4.16に「為替変動が激しい場合は介入が適切となる可能性がある」と発言がありました。>>IMF為替介入を容認
過度な為替変動には介入OK発言!
実は、IMFのルールの他にに米国独自ルールである為替操作国の認定があります。
米国による為替操作国の認定
米国は「為替操作国」の判定を1年に2回のペースで行っています。
認定の基準となるのが以下の3つの基準から判断しています。米財務省ページはこちら>>米財務省
どういうこと?
この条件の本質的な事項を説明します
条件を一つ一つ紐解くと、米国が懸念している概念を理解することができます。
米国が懸念しているのが、「介入による米国産業の衰退」です。
・米国産の製品が相対的に高く、売れづらくなる。
・米国の一つの産業を破壊する可能性がある。
実は、2019年に米国は中国を為替操作国と認定した時のプロセスを明らかにしていません。
これは、価格競争力の高い中国製品へ関税をかける目的が先行したからだと考察できます。
時の政権の公約にも関係しそう…
トランプ氏の公約ですね
為替操作国のデメリット
前述した3つの条件を満たした場合、米国と当該国で問題解決に向けて行動計画の策定が行われます。
当該国が行動計画に対し、適切な処置をとらなければ、前述した中国のように、なんらかの罰則を科されることになります。
・次の2021年4月に「為替レート操作の証拠なし」で為替操作国から削除されました。
※米財務省は1年に2回「為替操作報告書」を作成
結局、米国の懸念している為替介入は「自国通貨売り」であり、日本の場合であれば円売り方向の介入であり、円高時の対策となります。
「円売り」が対象となります
為替介入の為替市場における影響
為替市場における一日の平均出来高と為替介入の規模を比較すると、為替介入の影響を適切に評価することができます。
実需と投機の割合
・2022年が最新の調査で、次回は2025年に公表される。
外為取引の90%が投機筋です。そのため、短期的な為替変動は投機筋の動向により変動します。
実需?投機筋?ってなに
・為替売買があってから資金フローがない取引
・「買い」があっても売りに転換しづらい取引
【投機筋】
・実需の裏付けのない取引
・「買い」が行われたら短期間で「売り」の決済が見込める取引
FXの市場規模
世界の一日平均取引量は約7.5兆ドルとなります。(2022年4月時点)
取引量は2019年の6.6兆ドルより14.1%増加と年々増加しております。
取引される通貨の割合は2019年とあまり変化が見られませんでした。
順位 | 通貨 | 割合 2022年(2019年) |
1位 | 米ドル | 88.5%(88.3%) |
2位 | ユーロ | 30.5%(32.3%) |
3位 | 日本円 | 16.7%(16.8%) |
4位 | 英ポンド | 12.9%(12.8%) |
5位 | 中国元 | 7.0%(4.3%) |
介入が行われるドル円の割合を見てみましょう
この内、ドル円は世界で2番目に多く取引される通貨で、13.5%の約157兆円(1兆ドル)となります。
たった1日で1兆ドルも…
市場から見る為替介入の影響
1年間の為替市場におけるドル円の取引額は約200兆ドルで、日本の外貨準備資産総額は約1.3兆ドルと僅かです。
市場を一日平均で見ると1兆ドル程度となります。そのため、日本が独断で行えるたった3,200億ドルでも大きなプレゼンスがあります。
相場の規模感を把握すると、為替介入は長期に向かないことがわかります。
為替効果をより発揮させるためには、出来高が閑散とした時間帯に超短期に充当されると見るのがよいでしょう。
・NY時間帯の午後遅くとアジアの早朝時間
【出来高が多い】
・ロンドンとNY時間帯が重なる時間帯
為替介入の有無について
為替介入が行われた際に、財務大臣が発表することがあったり、発表しないこともあります。
発表しない介入は「覆面介入」といわれ、月末の介入実績から介入の有無を判断できます。ちなみに介入実績は月末にこちらから確認することができます>>財務省
覆面介入は推測かぁ
前回の介入は月次報告が公表されました
160円をつけた期間を含む(4月26日~5月29日)における為替介入は9兆7,885億円と公表され、この介入は概ね4月29日から5月2日にかけて行われたと推測されています。
日次の実績報告は8月上旬に公表されます。
介入は公表される前に出来高でバレます
覆面介入の意味あるの?
覆面介入の意義
そもそも、為替介入は為替市場の大きなトレンドと逆行した動きとなります。この逆行した売買が新たな情報によるトレンドの転換期なのか投機家は判断がつきません。
その際に、政府が為替介入を直ちに公表すると、不可解な売買の解明となり、投機家にとって絶好の押し目買いのチャンスとなります。
結局、為替レートが押し戻されそう
介入の効果が相殺されます
為替介入は大きな出来高となり、市場には筒抜けであります。しかしながら、公表しないことによる不確定要素があれば投機家の動きが鈍ることが期待できます。
これが、覆面介入のメリットです。
単独介入と協調介入
余談ですが、介入には一国独自で行う「単独介入」と複数国で行う「協調介入」があります。
協調介入は世界的な経済危機の対応として、各国が連携して行われます。
行われた過去の事例では、2011年の東日本大震災において、円高が加速した際にG7で行われました。
本来、為替は市場によって決定されるもので、意図的に操作すべきものではありませんから、よほどの緊急事態でない限り行われません。
為替介入のまとめ
為替介入の「円買い」は外貨準備資産を使うため、上限があります。
1年あたりの為替市場の取引量は外貨準備資産の100倍となり、比にならないくらい大きな規模であるため、効果的に為替介入を行うのが課題になります。
為替介入を効果的に行うには、出来高が少ない時間帯(NY時間の終わり~アジアの早朝に)短期集中で行うことで効果が表れます。
この時間帯の急変に注目です
イヤでも目立ちそう
一度、急変があると、その日から3日間は財務省が仕掛けることができるため、順張りで利益が得られる可能性が高くなります。
記事が、タメになったと思われたら、“SNS” や “リンク” で紹介して頂けると今後の励みになります。
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